explain
説明

過去に経験したテックブーム

私はパーソナルコンピュータとインターネットよりもずっと後、梅田望夫が『ウェブ進化論』を書いた数年後から、フルタイムでプログラマとして働きはじめた。業界の内側から経験したブームは古い順から

  1. ソーシャル
  2. モバイル
  3. クラウド
  4. 暗号通貨

で、2022年の Stable Diffusion, ChatGPT から、これを書いている2025年まで続いている AI ブームが5つめになる。

個人的には、暗号通貨をのぞく過去の3つについては「善悪あったけど、全体的にみたらポジティブじゃない?」と思っていて、現在の AI ブームも、それなりのところに落ち着いて終わるのでは、と楽観的に思っているきらいがある。

ソーシャル

ソーシャルとモバイルのどっちが先か、というのは議論の余地がある。ミクシィの上場が2006年、OpenSocial と iPhone は最初のリリースが2007年で、OpenSocial 自体が Google の Facebook 対抗としての性格をもっていた (その時点で Facebook が十分に脅威だった) ことを考えると「ソーシャルが先」というのは一理あるんじゃないかと思う。

私の場合、最初に入社した会社がミクシィで、結構な時間を OpenSocial に費やしたので、極めて個人的に「ソーシャルが先」という感覚が強い。あと、Google が突然 OpenSocial から方向転換して Google+ をはじめて、大企業に突然梯子をはずされるのをキャリアの最初のうちに経験できたのは、ふりかえると良かったと思う。

Cambridge Analytica 事件や、2025年時点の X をみた後に「ソーシャルはよかった」と言うのはちょっと難しい。でも、私は、ソーシャルネットワーク自体はそこまで悪いアイデアではなく必然性があり、インターネットに書き込む人が多くなったこと自体は良いことだったと思っている。長文を書けるひとが短文に流れすぎだとは思うけれど、ブログではとれなかった人たちをソーシャルはとりこめた。ここらへん、私はまだ Clay Shirky 的な価値観をひきづっているところがある。

モバイル

前述のとおり iPhone が2007年、Apple の App Store が2008年、絵文字のはいった Unicode 6.0 が出るのが2010年で、ここらへんで、アメリカで携帯電話インターネットがはじまり、i-mode からはじまる日本の色々が強引にマージされた。私達がちまちまキャリア毎の絵文字変換表とかをつくっているところで、Unicode に絵文字をいれるというのは大分強引でびっくりした。「Unicode 前提で国際化しても、UCS に無い文字がでてきたらどうするの?」「Unicode の次のバージョンに入れましょう!」というのは、私にはない発想だった。

個人的には、ミクシィから Amazon に転職し、目黒にあった小さなモバイルウェブのチームに色々仕事が集まって、結果チームは解散、わたしは当時のマネージャーのツテで渡米して、モバイルまわりの色々をしていたころだ。会社で The Big Nerd Ranch の講習をうけたり、有野さんの『Android を支える技術』のレビューをしたり、モバイルのまわりにいたけれど、プロダクションで Kotlin や Swift を書いたりはしなかった。

社会全体の影響でいうと、ソーシャルとモバイルが合流して、色々とよくないことがおこった、という認識自体は共有している。一方で、見知らぬインフルエンサーの投稿がながれてくるのは、ソーシャルというよりは単にテレビじゃないかとも思う。

ただ、手元にインターネットにつながるコンピュータがあるのは、見知らぬ土地で生活する上ではすごく便利だ。私は、スマートフォン以前に海外生活をはじめていたら、大変どころか無理だったのではと思っている。そういう点で、弱者を助けるテクノロジーとしての面はあると思う。

クラウド

これもサービス開始時期だけをみると上記2つと前後していて、2004年に AWS の SQS, 2006年に EC2 と S3 がはじまっている。でも、ミクシィにいたころは「データセンターにラックを置くのにくらべると値段が高いので、サービスの立ち上げとか、ピーク時のトラフィックを吸収するとか、用途をえらんで使いたいね」という温度感で、クラウド前提になったのはもうすこし後だったと思う。

計算機資源を特定少数の大企業が占有している、というのはあまり良くないのはわかる。ただ、クラウドのおかげで、インターネットを使った分散システムを作るのが簡単になったのも確かだし、データセンターにラックを置く企業自体はあるところにはあるので、クラウドも「選択肢がなくなった」というよりは「選択肢が増えた」で、結果としては良いことだと思っている。

私は、Amazon の最後は AWS で働いていたし、それ以降のスタートアップ2社もいわゆるクラウドを作る側なので、ポジショントークではある。

暗号通貨

Bitcoin の最初のホワイトペーパーが2008年、Coinbase の創業が2012年なので、このあたりが暗号通貨の年かと思う。要素技術であるブロックチェーンは業界全体にも影響があり、2018年には AWS からは QLDB (Quantum Ledger Database) が出たりしていた。

ただ、暗号通貨とブロックチェーンは、上記の3つにくらべると社会全体への波及は限定されている。物品と交換できる通貨としては普及せず、様々なデータをブロックチェーンにのせるのも上手くいかなかった。QLDB のサポートも2025年に終了した。

ゲームともキャラクターともひもづかない、純粋に理論だけのデジタルデータを、法定通貨で「買う」人々がたくさんあらわれて、結果として値段があがっていったのは、むかし SF 小説をよく読んでいた身としては面白かった。ただ、詐欺や、色々な理由で失敗してしまったプロジェクトが多く、市井の人々がお金を失ったのも事実なので「面白かった」ですませるのは、マッドサイエンティスト的でよくないという自覚はある。